シリーズRAF日記/日経RAVへの思い(第5回<2020年12月3日>)

シリーズRAF日記/日経RAVへの思い(第5回<2020年12月3日>)

プロモントリー・フィナンシャル・ジャパン 大山剛

今回もRAFの議論からやや脱線ですが(最近脱線が続いてすみません)、先般日本経済新聞社から公表されたRAV(Risk Visualization Analysis)に関し、こちらの開発を行った者としての思いを少しばかり綴りたいと思います。

RAVに関して、まだご存じない方は以下のサイトをご参照下さい。https://promontoryfinancial.jp/2020/11/2271/

日経の上記記事をまだ読まれていない方にとっては、「そもそもRAVとはなんぞや」ということになりますが、RAV(我々プロモントリーの内部ではRADB<Risk Appetite Dashboard>と呼んでいますので、この先はRADBという言葉を用います)は一言でいえば、以下のようなものです。

「日本の全地方銀行(地方銀行、第2地方銀行合計の101行)が公表している財務データ等に基づき、各銀行が有している主要な経営分野毎の「リスクアペタイト」や、様々な経営指標そのものを、多様な側面から観察、比較できるようにしたツール」

本年の夏頃に日本経済新聞社様にこの企画を提案したところ、意外にあっさり?とご了承して頂きました。

私の頭の中で長く温めてきたこの企画、アイデアの原点は「勝手RAS」というものでした。つまり、「勝手格付」と同様に金融機関のRAS(リスクアペタイト・ステートメント)を外部の第三者が入手可能な情報を基に「勝手」に書くというものです。長くRAFのアドバイザリーサービスを金融機関に提供してきて分かったのは、経営戦略全体を形作る戦略レベルのRAは、ディスクロ誌等を通じて出されている情報に基づきながらでも、ある程度描くことが出来るというものでした。同時に、RASという形で(往々にしてトレードオフの関係にある異なるRA分野毎に)各金融機関のRAを整理すると、そこに潜む論点も見えやすくなるということも分かりました。

戦略レベルの大きなRAのカテゴリーとしては、第3回「銀行の経営戦略に活きるRAFとは━VBDSを紐解く(1)」で紹介したとおり、①財務安定性、②収益効率性、③組織安定性、④社会性の4つがあり、それぞれに対応したリスクとしては、財務毀損リスク、収益低下リスク、組織動揺リスク、社会信用低下リスクがあります。そして、この4つのカテゴリーに関し、既にディスクローズされた情報を基に、それぞれの金融機関のRA水準をゲッスするのが勝手RASを目指すRADBの基本的考え方となります。第3回のエッセイでも記したとおり、①~④は時には互いにトレードオフの関係にあり、全てを主要ステークホルダーの満足する領域に全てのRAを誘導することは至難の業だといえます。

なお、最後に一つ強調したい点は、このRADBが金融機関毎の「採点表」を目指しているわけではないということです。そういう意味で、日経RAVと我々のRADBとでは、用いている情報は同じながら運用面でやや違いがあるかもしれません。メディアにとり、金融機関の「序列情報」は金融機関の関心を集めるためにも必須の要素であり、例えば全てのリスクを見渡し合算した「総合ポイント」を作りこれによりランキングすることは、金融機関や読者の興味に応えるという意味で重要だと考えます。そういう意味でRADBにもこうしたランキング情報は含まれているのですが、これらへのハイライトは同時に抑えるようにもしています。というのも、ランキングが入ることで、自然良いか悪いかの「評価」の要素が滲んでくるからです。

RAFの世界において自分がもっとも重要だと考えるポイントの一つは、まずは善し悪しの評価無しに、現状の「均衡」の姿を描いてみるということです。ここで均衡と称しているものは、様々なステークホルダーの期待を受けた現状のRAのバランスを指します。例えば、多くの地域金融機関は現状、その低収益性や規模の小ささ等が問題視されています。もっとも、多くの金融機関にしてみれば、こうした問題は他のステークホルダーの異なる期待(例えば、地域社会の利便性や経済厚生への期待や従業員の職場環境安定性への期待)を満たすために生じた結果ということかもしれません。私が重視するRAFの世界では、まずは現状の「均衡」が、どのステークホルダーの期待をどのように満足させ、同時に他のステークホルダーの期待をどのように犠牲にした結果生じたものなのかを「見える化」することから始まります。これは均衡の実態を理解する作業であり、均衡のポジションを一定の物差しに従って評価する作業ではありません。

その上で次のステップとして、こうした均衡が、本当に主要ステークホルダーが時間というダイナミックな波を超えて納得するものなのか否なのかを確認します。仮に「否」ということであれば、それでは次にいかなる「均衡」を目指すのかを決めることとなります。そして均衡の位置が決まれば、次に新たな均衡に移るためにどのような戦略が必要となるのかを議論することとなります。こうした一連の流れが、本来あるべきRAFの姿ではないかと考えています。

私としては、日本経済新聞社を通じたRAVの公表により、少しでも上記のような動きが金融機関の間で広まってくれればと期待している次第です。

さて、第4回、第5回と脱線が続きましたが、次回は本題に戻り、上記に示したそれぞれの分野において、各ステークホルダーが現状の外部環境変化を踏まえて、銀行に対しどのような期待を持っているのかをRADBのデータも用いながら、考えたいと思います。