シリーズRAF日記/銀行の経営戦略に活きるRAFとは━VBDSを紐解く(1)(第3回<2020年11月19日>)

シリーズRAF日記/銀行の経営戦略に活きるRAFとは━VBDSを紐解く(1)(第3回<2020年11月19日>)

プロモントリー・フィナンシャル・ジャパン 大山剛

前回記事では、RAFに欠かせないプロセスとしてVBDS(可視化、バランス、決定、実行)を説明しました。今回はそのうち「V」、すなわちステークホルダーの期待の可視化に関し、少し考えてみたいと思います。

銀行経営に係る代表的なステークホルダーを挙げるとすれば、まずは株主、そしてサービスを提供するクライアント(法人、個人)がいて、その他に社会一般や監督当局、格付機関や債権者、そして従業員が考えられます。これら代表的なステークホルダーが銀行という組織に対し何を期待しているのかを、典型的な分野毎に整理してみるのが、RAFをスタートする上での出発点となります。

典型的な分野を特定化するに当り私がよく用いているのが、安定性 vs. 革新性という考え方の取り込みです。具体的には、安定性に属するものとして「財務安定性」と「組織安定性」、革新性に属するものとして「収益効率性」/「成長性」と「社会性」の4つの分野を用います。これらのうち、一番分かりやすいものが「財務安定性」と「収益効率性」/「成長性」の対立軸でしょう。多くのステークホルダーは、双方ともに改善を望みますが、両者がトレードオフの関係にある中でそのバランスに関してはニュアンスが存在します。例えば株主は「収益成長性」/「成長性」への期待の比重が高い一方、監督当局や債権者は「財務安定性」への期待の比重が高いかもしれません。

「財務安定性」は、従来の統合リスク管理や多くの金融機関で現状導入されているRAFの考え方に一番近いものです。バーゼル規制によって導入された自己資本比率は、現状テイクしている財務リスク(信用、市場リスク等)が自己資本対比でどの程度となっているかを示したものであり、「財務安定性」を示す代表的な指標だといえます。これまでのリスク管理は、様々な財務リスクと一部の非財務リスク(オペレーショナルリスク等)を一定の方法で計量化し、これらの総量を何とか自己資本比率の一定割合に抑制することを目指してきました。多くの金融機関で導入されているRAFもまだその延長線上に止まっています。というのも、RAFを用いることでリスクテイクのダウンサイドのみではなくアップサイドもみるようにしているのですが、その見方は「財務安定性」という一つの物差しに依存しているからです。「財務安定性」は確かに「収益効率性」/「成長性」とは往々にしてトレードオフの関係にありますが、例えば収益力が低下するリスクまで「財務安定性」で測るには無理があります。

「収益効率性」は、収益力や効率性を評価したものであり、代表的な指標としてはROEやコア業務純益ROA、修正OHR等が挙げられます。また「成長性」の代表的指標としては、コア業務純益の伸びに加えて、貸出の伸びや手数料収入の変化率等があります。収益力や成長力が低下するリスクを、単に「財務安定性」をひっくり返してみるだけではなく、独自のより直接的な指標により捉えていくことが真のRAFを築くに当り重要な要素となります。こうした作業は従来であればリスク管理部門ではなく、経営企画や財務部門がリスク管理とは独立に行ってきたものでした。RAFにおいては、「財務安定性」と「収益効率性」/「成長性」の一体管理が不可欠となります。

「財務安定性」や「収益効率」/「成長性」に比べ、やや馴染みの薄い概念が「組織安定性」と「社会性」となります。もっとも、従来リスク管理の世界で余り重視されてこなかったのは、重要性の低さというよりは、むしろ「見える化」の難しさに寄因していたように思います。「組織安定性」とは、端的に言えば従業員の組織における居心地の良さを背景に組織に対する忠誠心が高く、結果として組織全体が円滑に機能する程度を表したものです。代表的な指標としては、従業員給与の水準や今後の伸び代を見るという意味で1人当りコア業務純益と従業員給与の比率、さらには勤続年数等がここには入ります。この「組織安定性」は、「財務安定性」同様に、「収益効率性」/「成長性」とは往々にしてトレードオフの関係にあります。例えば、ビジネスモデルを大きく変えようとすれば、レガシーの人事システムも大きく変えることが求められますが、これには通常大きな組織動揺が伴います。

最後に「社会性」ですが、これは今どきの言葉でいえば「ESG性」と言ってもよいかもしれません。要は、社会が求める(目まぐるしく変化する)規範にどう積極的に応えているかを評価するものです。代表的な指標を選ぶのは難しいですが、ガバナンスやミスコンダクト、リス管理の程度を示す指標や、地域経済創生や環境保護に向けた取組みを示した指標等がここには入ります。

次回は、上記に示したそれぞれの分野において、各ステークホルダーが現状の外部環境変化を踏まえて、銀行に対しどのような期待を持っているのかを考えたいと思います。